5. 貧乏陶芸家が集める骨董 堅手祭器   石山哲也

 

蓼食う虫も好き好きといいますが、美術好きが100人集まれば、100通りの美意識があるわけです。極端な話、まったく真逆ということもありえます。初対面で意気投合することもあれば、お互いに理解に苦しみ、相手を蔑むわけです。そのやりあっている様を傍から見ていると、非常におかしみを感じます。

かくいう自分もその渦中に何度も巻き込まれてきたわけで、人の事など笑っていられません。自他共に認める骨董好きで、一日の時間を殆ど陶芸のことばかり考えて生活しているけど、もともと懐も限られているので、あくまで空想でものを言うしかありません。「あれは世間では名品で通っているけど、すぐさま飽きる茶碗だ」とか、「市場に出てくれば10億だろうね」と、まるで世の中の全てを見てきたようなことを言っていますが、実際のところ、骨董市やインターネットをウロウロするぐらいで、有名店に入っても冷や汗かきながらほうほうの体で逃げ出すレベルです。

信楽は田舎なので、なかなか都会に出られないのですが、先日は東京で仕事があったので、ついでに目白で開かれていた骨董の催事に行くことにしました。見込みにヒビの入った李朝後期の堅手祭器(茶碗になりそう)、歪んだ唐津刷毛目茶碗(完器かと思ったら高台に共色直しがあった)、直しのある桃山黄瀬戸の小皿(無理したら盃になりそう)、これだけは傷のない、虹色に変化したローマングラスの小品を購入。ローマングラスはともかく、今更この品揃え?と20年来の骨董仲間が見ても首を傾げるばかり。買うのを我慢して、もっといいのを買えばいいのにとボロクソでした。そういえば堅手を買うとき、お店の人も初日だし、ちょっと強気な値段を付けてみたものの、本当にこの値段で買うんですか?的な感じ。本来の相場は何千円のものです。高台のひびが影響してできた山傷とはいえ、見込みの鳥足はいただけません。でも、意外といいとこもあるでしょ?ほんのり御本がピンク色に出てたりとか、高台が高いとことか、落としても割れなそうだし、とにかくこれなら毎日遠慮なくお茶を飲めそうだと思ったんです。いいんです。そのうち桃山志野やら光悦やら好きなだけ買うんですから・・・今だけなんですから・・・多分。その前に嫁が前バンパーから後部ドアにかけてこすった車のへこみを修理しないと・・・自分で。

 

ちなみにその前日は東京国立博物館で茶の湯の名品展を拝見、曜変天目、卯花垣など国宝をはじめ、名だたる名品を見てきたばかりでした。勿論、その後値段の話になったのは言うまでもありません。

(こちらを執筆してからしばらく経っていますので、車も無事自分で修理を終え、その後藤田美術館、龍光院の曜変天目も見ることができました。一年で全ての曜変を見ることができるのも珍しいことです)

 

堅手祭器 李朝後期(19世紀) 幅12cm 高さ9cm