渡辺 愛子 Watanabe Aiko
略歴
1971年
大阪府堺市に生まれる
1992年
嵯峨美術短期大学 美術学科 絵画Ⅲ科卒業
1994年
信楽の穴窯で焼成技法の勉強を始める
2001年
三重県伊賀の地に穴窯を築き、独立

やきものの良さであり恐ろしさでもあるのは、制作する人間の「そのとき」が極めて「そのまま」に顕われるところです。それは絵画、彫刻あるいは文学よりも、書や音楽に近いような気がします。造形や焼成の破綻の有無など具体性を持つものから、作品から発散される雰囲気や気配、そして品格といったものまで、“金太郎飴”のようにどこを切っても随所に一貫性をもって顕われるものです。
このところ渡辺愛子さんの近作の小さな写真から、その雰囲気や気配感に格段の向上が見られるのはなぜかと思っていました。
氏は近年の展開の広がりのひとつとして海外の人たちとの仕事の機会があり、彼らの属性を排したものの見方にたいへん感銘を受けたとのことです。もちろん海外の人も様々でしょうが、渡辺さんはこれまで長らく国内でやきものに関わるなかで「“女性ながらも”独力で穴窯を築き、王道の信楽に挑んでいる」と何かにつけ付加され、やきものを焼くにあたって女性を意識することは一切無いにも拘わらず、それを売り文句とされ属性とみられることが常に心外であったそうです。この国は相変わらず「女流作家」などという家長制度の名残りである前時代的な言葉がいまだに平然と使われ、それがマスメディアなどに利用されれば安直に展覧会の宣伝文句などに再利用され“属性”は繰り返し増幅され続ける昨今です。この世界が自らの眼で観きる者ばかりで占められているならば、もとよりそうもならないのでしょうが、むしろそういった澱のように積もる呪縛から開放される機を得たことで、渡辺愛子という人が本来もつ“繊細な剛直さ”といえるものが紆余曲折を経ながらも「そのままに」顕われてきたものが、このたびの作品群に纏う気配感の正体かも知れません。皆様ご高覧下されば幸甚です。