安倍安人さんの前作、つまりふた昔以前の貴重な作品です。
近年は「彩色備前」で知られる安人氏ですが、その愛好者の多くは、当時の素晴らしい作品群のほとんどを知らないようです。
私はそれを、かねてよりとても残念に思っていましたが、このたび80年代後期の、氏が工房を愛媛東予から岡山牛窓へ移るあたりの扁壷をご紹介したいと思います。
片身全体がこの時期特有の青味を帯びた胡麻で覆われ、肩に白の糸胡麻が見られます。肌は実に渋い暗色が「底光り」している、やはり氏のこの時期ならではの特徴がよく出た焼き成りに上がっています。
この特質は、それ以降とは窯とその焼成法が異なることが主因かと思われます。因みにこの頃の氏は「長時間焼成」!をしていたそうです。
個人的には、この頃から90年の壷中居第一回展と、96年から98年最初頃までのもの、そしてそれより以前の愛媛東予時代のものが特に好きです。
安倍安人さんの旧作を安直に「古備前」に結びつけるのは浅薄な見方です。
氏のこの時期の作品は古伊賀や美濃、果てはエル・グレコなどの複合要素を独自の編集感覚で備前本来の「強系」の肌に込めて表現された、「安人様式」の作品なのですが、表面だけを見てその肌合いから「古備前」をすぐに引き合いに出す人が多いのも、また残念なことです。
先行イメージをすべて排除してこの佳品をご覧いただけることを切望いたします