緋襷は「緋の赤」と「土の白(青味や暗色のものもある)」によって構成されますが、命は「土の白」です。
いかに襷の緋色や文様が見事にきまったとしてもこの「土の白」が死んでいると、緋襷としては失敗なのです。
多久守氏は、この活きた白を実現させるためにありとあらゆる仮説を密にたて、リスクをものともせず実践してきました。
その時々の成果が現れれば、すでにそこには留まらず、次なるリスクを探求する姿は行者そのものです。
今回ご紹介する緋襷酒盃は、まさに現時点での成果といえるものです。
よくコントロールされた赤白のバランス、襷部は明確な輪郭線を出した片側よりほのかなグラデーションで消えて行く緋の片身に替わり、それが多久氏ならではの美味な白によって支えられています。姿も落ち着いた安定感のある全体ですが、角度によって剽げた表情が現れるつくりになっています。
見込の紅白の片身替りも酒を呑む時の楽しさを約束する佳品です。