可憐に咲き誇りし花は、仄か(ほのか)な紅化粧を添え、本来の儚き姿を今ここに永遠と化しました。
裏方として花びらを支える萼(がく)が、ここでは力強くも繊細な盃の主役を堂々と務めあげています。
造形が自然を模する場合に元の自然を超えるためには、格別のセンスを備えた極端なデフォルメか、
もしくは徹底したリアリズムにさらに『何か』を加える感性、などが必要と思われますが、
本作品では後者が選択され、華麗に完遂されています。
上部に向かい大きく広がる見込は、地の色や景色の良質さを目に訴えかけるだけではなく、
見る者を吸い込まんとするほどの鮮烈な『何か』が脳に直接語りかけてくるかのようです。
この生命なき生命は実に手馴染みも良く、適度な重みは扱う者に満足感を超えた達成感すら感じさせます。
酒が進むと思いきや、美しさに浸ってしまうがゆえに酒はむしろ止まるかもしれません。
その際は高台側から一覗きすれば、息をのむほどの煌やかな光景が喉を潤してくれることでしょう。
『何か』との対話はいつまでも終わりません。
それほどまでの深さを持つこの盃は、花のごとく輝く酒とあなたをいつまでも支える萼と化すのです。
(日野)