Tchavolo Schmitt / Alors?…Voila!
「伝統を踏まえつつも独創を加えた新しい表現・・・。」
この言いまわしは、やきものに関わっていれば両耳にタコ、両目は鱗だらけになるくらいに押し寄せて来る。
そして、本当にそれに該当するやきものは、今だかつて一度もお目にかかったことは無い。
今回は、マヌーシュギタリスト、チャボロ・シュミットである。
日本では「ジプシー」が通りのいい呼称であるが、ジプシーや「ジタン」、「ツィガーヌ」などと呼ばれるのを彼らは望まず、同じく流浪の民という意味を持つ「マヌーシュ」が適切であるらしい。チャボロ・シュミットは、マヌーシュスウィング、ジプシージャズなどと呼ばれているスタイルを確立したギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの伝統を踏むフランス人ギタリストである。
紹介する「アロール?…ヴォワラ!」(2000年発売)は、マヌーシュギタリストの間でたいへんに高いリスペクトを集めながら、それまで録音をはじめ表舞台に出ることが非常に少なかったがゆえに「伝説」と呼ばれていた彼の、六年振りのリーダーアルバムである。これ以降は立て続けにハイペース(彼にしては)で何枚か出すことになるが、個人的には楽曲、演奏内容ともにこのアルバムが最も好きである。その演奏は冒頭にあげた文句が、まさにそのまま使えてしまうものだ。(やきもの屋!何とかしろ。)
ジャンゴ・ラインハルトの系統にありながら全く独自で、それでいてやはり正統のド真中でもある凄絶なギタープレイが全編に溢れる。「どこを切ってもチャボロ・シュミット」である。
余談であるが、この人のライブ演奏を何度か体験する幸運に恵まれたが、実によく弦を切る人で(一曲で2本切ることもあった!)、驚いたのは楽器を替えるわけでもなく曲の途中に平然とその場で弦を張り替えているのは序の口で、何と切れた弦を巻き直してブリッジテイルピースに「結え付け」、次の曲もそのまた次の曲も何事もなかったようにその状態で弾き続けているにあたっては呆然とした。突っ込んだ話で申し分けないがセルマータイプのギター(フランスのM・デュポン製のものであろう)のテイルピースでは、確かにこれをやろうと思えば気長にさえやれば不可能ではないが、本番の曲の進行中に、まるでタバコに火をつけるが如くさりげなく、しかも一度ならず、楽器を替えるそぶりも見せず(スペアギターはあったそうだ)、見て驚く方がおかしいのだと思えてくるほど平気で弾き続ける演奏家は後にも先にも他に知らない。(弦が切れたまま弾き通す程度であれば、ごく可愛らしい行為なのだ。)更に付け加えておくと弦を切って「巻き付け直し!」た直後から演奏は明らかにより凄絶なものとなり、従って最後の方にはエライことになっていたのである。
これはチャボロ・シュミットに限ったことではなく、他のマヌーシュプレイヤーの演奏に接するたび、いつも本当に感心するのは音楽が完全に「身に付いている」といった感じとは少々異なり、「音楽そのものが楽器を鳴らしている」という風体なのだ。これは何なのだろう。
マルタ・アルゲリッチやギドン・クレーメルといった「クラシック界の巨匠」やジェフ・ベック、エリック・クラプトンなどの「ロック界の大御所」さん達と比べても「音楽の発動体」感がより強かった。
ここ最近では、彼らが来日することは滅多になくなってしまったが、機会があれば是非、そのライブを体感していただきたい。彼らの音楽に直に触れた経験が無い方は、ほぼ間違いなく他の音楽ではまず感じ得ない音楽体験をすることになると思う。