【閲覧上のご注意!】※閲覧前に必ずお読みください。
このコーナー「やきものの常識は疑え!」は、やきものギャラリーおよび美術館の企画、または関連書籍や陶芸作家の言動や作品、あるいは、現代社会において楽しく充実した生活を送るすべを心得ておられ、現在この国は民主主義であると何の疑念も抱かずに受容されている方にとって、必要なことは何一つ書かれていません。閲覧により不快感、吐き気、嘔吐、食欲不振、めまい、ご家族への八つ当たり等の症状があらわれた場合、ただちに閲覧を中止し、当方ではなく医師・薬剤師・唎き酒師・祈禱師などにご相談下さい。乳幼児、小児にこれを読んで聞かせる場合はご家庭の教育方針への抵触にご注意下さい。また、本稿を閲覧しながらの自動車及び機械類の運転操作はしない下さい。

32. みぬしかわぬはのはなし

 

 

やきもの店にやって来るなかには、それとすぐ分かる人々がいます。

「その筋のかた」や「同業者さん」のことではありません。

なぜそれと分かるのかといいますと、やきものを見ないからです。

 

やきもの店に、お客さん以外の一般の方がわざわざやって来るのは、「その筋のかたの事務所」の場合と同じく、余程何かの事情があるのであろうかと思われるほど稀なことです。

なので来店者の目的といえば、やきものを見ることくらいしかなさそうに思います。

ところが、やきものを見るつもりはさらさら無いがやって来る理由は有る、という人たちが少なからず実際に存在するのです。それは一体どのような人達なのでしょうか?各種勧誘の方々や宅配業者さんのことではありません。

なぞなぞのようになってきました。

 

それは「陶芸教室」というものに通っている人達です。

本当にびっくりするほど、この人たちはやきものを見ません。もちろん買うこともありません。

では何をしに来るのかといいますと、「やきものの作り方」を調べに来るわけです。在廊中の作者さんへの質問も作品そのものではなく、作品の作り方のことに限定されます。そのことに於いては相当に熱心です。

 

やきもの店にやって来て、まがりなりにも「やきものを作る」ことで生計を立てている作者さんに、「やきものの作り方を尋ねるだけ」というのは、空気と情報はタダ、と思っている現代日本人の弊害なのでしょうか。やきもの店に入って、「何も買わずに無事出て来た者はほとんどいない」などということは決してありません。買わずとも「やきもの」を普通に見ていただきさえすれば、それだけで作者も私たちもかなり嬉しいものです。

 

なぜこのようなことになるかといえば、これはもう講師陣が完全にそのような人たちであるからです。「まずは、やきものをよく見ることから始めるべし」との初期教育が出来ないのは、彼らもまたやきものにはほとんど興味が無いからです。

やきものを見ることと、その作り方を見ることとは、まったく別の行為です。

「やきものを見る」とは、やきものそのものを見るということです。

念のために申しておきますと、作り方にしか興味を持たないということは環境破壊行為や反社会的国賊である、などと言いたいわけでは断じてありません。どうせ同じ時間と労力や月謝を消費するのであれば、それではあまりにも勿体ない!というだけのことです。

これは余計なお世話でした。ですが、どうせやきものを作ってみようかというのであれば、「やきもの」も見ておいた方が、その上達は数次元違います。これは確実に断言できることですが、土の立場からしても、単なる自己満足のために、後世にとても見られたものではない姿に物質変換させられたくはないでしょう。

プロ、アマ問わず、やきもの作りに関わる者が「やきものそのものを見る」ためには、とても良い方法があります。

この方法はいたって簡単で、やきものを見る際には、自らもやきものを作っているということを一切忘れるということです。そして頭の中が飽和状態になる限界まで観たなら、帰り際に少しだけどうやって作ったかについて考えてみてもよいと思います。この時のポイントは「帰り際に少しだけ」というところです。作り方について熟考するのは、それ以外の時間に行います。ぜひ試してみて下さい。作るものが明らかに違ってきます。

そうやって観たものたちが、制作の際に力を貸してくれるはずです。助力が得られない場合は、見ようが足りていないと認識してください。

 

ここからはさらに踏み込んだ話です。先述の内容と一部矛盾するかもしれません。

やきものに興味がある人達には、あるひとつの傾向があります。

「やきものを買う」という傾向です。

何だ、そんなことかとは思わないで下さい。

やきものを買うからといってやきものに興味があるとは限りませんが、やきものに興味がある人はやきものを買うのです。早口言葉のようですみません。

古くから「やきものは買ってみないと決してわからない」と言われていますが、これはまったくもって本当のことなのです。

関わりのない人からみれば、やきものなどを買う人はどうせ一部の富裕層なのであろう、というたいへんな誤解を受けやすいのですが、その実際は、決して多くはない収入のなかから「万難を排し」買い続ける人の方が圧倒的に多いのがこの業種の現状です。もっとも、「富裕層」の人々がもう少しでも買って下さると業界としてはとても助かるのですが、そのようなことはすでに一世紀以上昔の話となりました。

陶芸教室や大学の陶芸科の生徒さん、そして講師の皆様!是非やきものを「自腹で」買ってみて下さい。それだけで、やきものを取り巻く環境は確実に改善され、土や石も“やきものに成り甲斐”があるというものです(講師の場合は、人様にやきものを「教えて」生活をしている都合、購入予算は少なめに見積もって年間収入の三分の一が最低ラインです)。買っていると、見方や作るものの質がより確実に向上します。これは「営業」ではありません。

 

さてそれでは、今回の話をプロの陶芸家さんや美術館の陶磁研究者、そしてやきもの販売店の方々にも当てはめてみましょう・・・・・と思いましたが、あまりにも恐ろしい予感に腰が立たなくなってしまいました。