8. 備前雀口小壺 14世紀 高さ7.7cm胴径7.9cm
前回は鳶口、今回は雀口です。
どちらも同じ片口小壺ですが、備前地方ではなぜか「すずめ」なのです。
雀口という呼びかたは備前特有のもので、他の産地では、鳶口、お歯黒壺、あるいは単に片口小壺と呼びます。
備前には徳利などにも独特の呼称がいろいろありますが、この雀口はなぜ「すずめ」なのかと、備前地方の人達に尋ねてまわったことがありましたが、「すずめみたいじゃろ」、か「さあしらん」かのどちらかでした。そう古くからの呼び名ではないようです。
たしかに「すずめ」なら「しじゅうから」や「ぶんちょう」よりは身近にたくさんいて、かといって「からす」や「とんび」やというには可愛らしすぎたのでしょうか。
備前でも、20センチ前後の大きさの片口壺であればもはや「すずめ」と呼んではもらえません。「舌切りすずめ」の話が「舌切りニワトリ」でないのと同じことなのかもしれません。
このすずめは、ねずみいろです。
備前のやきものは現在では「赤茶色のやきもの」として知られていますが、その初期である鎌倉時代、熊山の山頂あたりで焼かれていた頃の初期の備前陶はおおむねグレーの肌合いのものです。山を下りるにしたがって赤味が増してゆきます。「もみじ」とは逆ですね。
因みに備前陶のルーツは、例にもれず学術的に特定されていませんが(この分野に「学術」が存在するか否かは別として)珠洲、東播系諸窯との関係をもっと調べればよいのにと思っています。
現存する雀口は「赤あがり」で肩がなだらかに丸味をおび、張りの重心が中心より下にあるものがほとんどなのですが、このすずめは灰色に一部赤味が挿し、肩が須恵器のように張った厳しい姿をしています。初期のものと思われます。ちょうど「ほっぺた」の部分が赤くなっており、ほんとうにすずめのようです。いや本物のすずめは、ほっぺたが赤かったりはしません。
このように、厳しいけれども可愛いやきものはよいものです。酒が旨くなります。
ですが本当にすずめくらいの小ささなので、酒は七勺しか入りません。したがって何度も注ぎ足しているうちに前後不覚になってくるので、このように小さな可愛いものを酒器に見立てる際にはとくに注意が必要なのです。