10. 丹波赤どべ片口小壺 17世紀 高さ9.7cm胴径10.0cm
引き続いて丹波片口小壺です。
こちらは江戸初期の「赤どべ」です。「どべ」とはヌタ状の土のことです。
赤どべは素地の上に、素地土より耐火度の低い別の土を細かくヌタ状にしたものを、掛けたり塗ったりした丹波立杭特有のやきものです。備前の「伊部手」と同じく、もとは漏れ止めを目的にしたものですが、たいへん独特で美しい赤に発色したものが少なからず現存していて、丹波のやきものの中でもとりわけ珍重されるアイテムとなっています。
とりわけ、このように小さな片口壺は珍しいものです。
資料として見るべき箇所は、赤どべが「掛け外し」になっていることにより、施釉(施どべか・・)と素地土の様子とがあからさまに確認できることです。これも案外少ないのです。
この小壺はお歯黒壺として使われていたようで、入手した当時、内側が酸化第二鉄と化したお歯黒でびっしり覆われていました。
すこし腰は引けましたが、構わず酒を入れてみました。
鉄分補給にちょうどよいわ、などと構えていると、あっと言う間に盃の内は40年物の高麗人参酒色に染まり、さらにはついに赤どべと化しました。これではさすがに「鉄の肝臓」になってしまいそうなので、かなり怯みました。そこで、これまでの例にしたがって金ブラシで慎重に除去を試みた結果、腱鞘炎になりました。
そのかわり未だ鉄の肝臓にも心臓にもなっていないようです。
呑みすぎると酔っぱらうし、怖い目に逢うと一目散に撤退するからです。
いま考えてみれば、「鉄の肝臓」や「鉄の心臓」でも良かったかもしれません。
もしかすると、昔のひとに較べ、今のひとは「鉄分」が少々足らないのかもしれません。
いまいちど「指輪」を、「お歯黒」に戻してみればいかがでしょうか。