李朝の徳利は「酒注ぎ」に開発されたものではありませんが、古今東西これほど酒に合う酒器は他にちょっと知りません。
「見事な手重り」や「引き締まった首」も、これが現代作家だと「重い!」だ「首が細い!」だの文句を言われてしまうものが大半ですが、機能性には全く問題はなく、それも含めての魅力となっています。これらを使っていると「現代人の要望」に応えすぎた現代作家さんの徳利は物足らなく感じるものです。(応えなければよいのにと思います。)
さて、李朝を含め古い徳利を選ぶ時には注意が必要です。これは冒頭で述べたように、酒ではなく油や香水を入れて使用されたものがたいへん多いのです。なのでその場合、これらが酸化したものが長年かけて染み着いています。こうなると、各種強力洗剤の使用や煮沸を行っても、これらはまず抜けません。抜けたようにみえても、すぐに「復活」します。
ちなみにこの徳利は、買ってからしばらくの間は何ともなかったのですが、やがて油臭が出始めました。煮ても洗っても取れません。
私は当時、その対策を知らなかったものですから、こうなれば油が出尽くすまでと、油臭の移った酒を(徳利に入れると本当にあっという間に移るのです)「根性」で呑み続けたのですが、結局15年経ってもまるで抜けてくれないどころか、終いには盃の表面がみごとな虹色の被膜で覆われるようになりました。こうなると、ひと口呑めば口が真一文字に結ばれます。そこで、これは奇跡だ、私はこの魔法の小瓶で油屋を始めるべきなのだと思い、人に話したところ、だいたい皆同じ目にあっていました。
結局その後、植物は油を肥料とするから、それを入れっぱなしにしておけばどうだと思い、水を替えながら樒などを入れ続けていたところ、5年ほどでようやく酒の味に影響を及ぼさなくなりました。買ってから20年後のことでした。ただしそれでもこの履歴のあるものはカビがはえやすくなるので注意が必要です。
こうならないようにするには、古い徳利を買う時は店の人に頼んで、
1.「お湯を注ぐ」、2.「3分待つ」、3.「湯を捨てる」、4「嗅いでみる」と、なんだかデジャ・ヴな行為が必要です。(本当は店側が確認のうえ先にそれを言え!)
というわけでこの徳利は、肉厚な炻器質特有の手触りも充分な手重りも実に心地よく、これを手に持って座ったまま眠りについても、その寝覚めが大変良い、という話でした。