やきものをたいへん好きなので、良いものに巡り会って大喜びで家に連れて帰ると「奥さん」にボロのカスのに怒られる、という人たちが少なからずいらっしゃります。
アンデルセンを読むより泣けてくる話ですが、さてどうすれば良いでしょう。
聞くと「押し入れなどに隠してもすぐバレる」のだそうですが、それはそうでしょう。
押し入れなどは通常の家庭では「奥さん」のテリトリーであるからです。
では、どこに隠せばよいのでしょうか?
「りす」のように頬っぺたに詰め込むにしてもぐい呑二個が限界でしょうし、元々そのような顔形でないかぎり見ればすぐバレてしまい「さあ吐け!」で終わりですが、なによりその状態でビンタなど喰らわされようものなら大変なことになります。
机の引き出しなども、真っ先に捜査の手が伸びるところでしょう。また残念なことに昔から「引き出しには拳銃」と相場が決まっています。
屋根裏に隠せばそう簡単に見つからないであろう、という考えは現実への配慮に欠けています。毎晩、酒を呑むたびに屋根裏に上がってゴソゴソしているのを何とも思われないようであれば、そもそも最初から大丈夫なのです。
庭に穴を掘って埋めたとしても、すぐに「ポチ」が堀り出して自慢しに来ます。
このように「隠す」のも、なかなかに困難なことです。
「説得する」という手があるではないか、と外野(あるいは幸運に恵まれた方)は思うかもしれませんが、そのような「奥さん」を簡単に説得可能なのであれば、1960年代にはすでに世界中全ての共産主義国が民主主義へと転換していたことでしょう。
「開き直る」あるいは「恫喝する」、というのはあまりお勧めできる手段ではありません。
高確率で「家庭裁判所」や「警察」の管轄となり、私たちやきもの販売店がご相談に乗れるのは、飛び交った皿の修繕に関するものくらいに限られてしまうからです。
「出家する」という方法も一見良いように思えますが、古来より「出家は身ひとつ一物も持たぬ」という厳しい戒律があり、物欲に抗えぬ破戒者には未来永劫に渡って畜生道に生まれ堕ちる、という業が待っていますので、これもやきもの好きとしてはつらいところです。
さて、それではどうすれば平和を保持しながらもやきものを増やしてゆくことができるのでしょうか?
これから「奥さん」をお迎えになる方であれば、まずは大量のやきものを充分に備蓄しておいた上で「奥さん」をお迎えになることをお勧めします。
十個のものが十五個になると、五つ増えただけでもけっこう目立ちますが、十万個のものが十一万個へと一万個増えたとしても、興味の無いものであればほぼ気付かれることはありません。その状態から毎日五個ずつ増やして行っても、「体重」と同じでやはり床が抜けるまで気付かれることはないでしょう。また床が抜ける頃には家も古くなっているでしょうから、家のせいにできます。
もっとも、十万個のやきものを目の当たりにしてもなお「奥さん」になってくれる奇特な人であれば、元よりそのような心配もありません。
すでに「奥さん」をお迎えになっている方の場合では、このように簡単な方法では片付きそうにありません。
「見つかれば怒られる」、「隠してもムダ」、「プレゼンテーションならびに一切の問答は無用」という背水の陣において安全にやきものを増やしてゆく方法など存在するものでしょうか?
私は知りません。
「奥さん」が、自分以上にやきもの好きになり“立場が逆”にでもならない限り、「やきもの」も「奥さん」も「国会議員」も、選んだのは自分と諦めるより他にはなさそうです。
ですがそれではあまりに不親切のようにも思いますので、親切がモットーのやきもの店としては、決して保証のかぎりではないが助かる可能性もある、という方法をひとつ紹介してみます。
「かくれんぼ」という遊びがありましたが、真っ先に鬼に見つからない妙策として「出来るだけ鬼の至近距離に隠れる」というものがあります。
やきものでこの策を応用するとすれば、まず「奥さん」の最も目に触れやすい「台所」のしかも日常よく使うものの中に隠さずにさりげなく置いておきます。「隠すであろう」という先入観を利用したものですが、これを見破られても決して慌てず、「此れ如何なるものや」と問われれば顔色ひとつ変えず(ポーカーなどと同じくここがポイントです)「いにしへより在りしものなり」と、殴られても答え続けることです。
ご健闘をお祈りいたします。