絵画、古美術、やきものなどを扱う「美術画廊」などと呼ばれる店は、一般の方から「敷居が高い」と言われてしまうものです。「入り難い」ということです。
なぜなのでしょうか?
敷居が実際に三尺五寸あって走り高跳びでしか入店できない、という店は知りません。
その理由が、やきものを抱えてしょっちゅう高跳びで出入りするのは危ないからだとしても、「バリアフリー」を完備させていたとしても、やはりそのように言われます。
いずれにせよ「火の無いところに煙は立たず」ですので、そのように言われるからには何かしらの理由があるわけです。
では考えてみましょう。
やきものギャラリーのドアは内側からは決して開かない、などということはありません。
家族三人で入ったものの二人しか出て来なかったりすることも滅多にないそうです。
買わずに出ようとしたら髪の毛の伸びる市松人形に追いかけられたという経験も、個人的にはこれまで一度もありません。
一見コワそうな人たちに取り囲まれることはありますが、実際に変な人たちではあっても「やきものをこよなく愛するお客さまたち」ですので危害は加えません。
しつけの悪い店員が寄ってきて「それ素敵ですよね♡」などと目も眩むようなセリフを吐きかけられたとしても絶対に振り向かず、「全然素敵ではない」と答えておけば大丈夫です。
やきものギャラリーは、病院や美容院あるいは料理店や法律事務所などのように、訪れたら大抵はお金を支払って出て行くことになるわけでもなく、「入場料」や「テーブルチャージ」なども取られません。
確かにふた昔前ならば、あきらかに一般客を見下した上から目線まる出しの古美術商なども存在しましたが、世代も変わり市場規模も著しく縮小した現在において、そのような伝統を継承しているのはデパートか一部の有名店くらいのものでしょう。
それでもなぜ「入り難い」のでしょうか?
どうやらこれは「店」や「商品」にその原因があるのではなさそうです。
かの千利休居士も「そのみせに入らんと思う心こそ我が身ながらの師匠なりけれ」とおっしゃられています(ひと文字違ったかもしれませんが些細なことです)。
そのようなわけですので“美術画廊の敷居”は常に「幽霊」や「競馬でボロ儲け」などと同じく、そう思う者の心の中にのみ存在するものなのである、という話でした。
今回は皆様にはまるで無縁な話であったとは存じますが、もし皆様のお友達に「美術画廊へ行こう」と誘えば即座に気を失うような方がいらっしゃれば、ぜひともこのことを教えてあげて下さい。