その17. 徳利の穴の話
「徳利の口穴は小指が一本入るものが良い」という人々がいますが、作者の皆様は決して真に受けないで下さい。瓶から酒をやや入れやすいのと、比較的洗いやすいことの二点以外に良いことはひとつもありません。代表的なデメリットとしては、姿が悪くなる、酒の出がだらしなくなる、大型のゴキブリやマイマイカブリが容易に出入りしやすくなる(続いてその場にて繁殖活動を行う)、などがあります。
余程”しらうをのやうなゆび”の方からの要望でなければ、「100均へどうぞ」とお勧め下さい。
その相手はさほど徳利に興味のある人ではないからです。こういった人の言うことを真に受ける作者は、同じく無理に徳利を作る必要のない作者と見做されます。
徳利は並居るやきもの群の中でも、その造形美と使用感を兼ね備えることにおいて最上位の器種です。
良い徳利と日々を伴にしてこそ「酒器好き」を名乗ってもよいと思います。
ですが、近年は徳利を熱愛する方の激減が少子化以上の大問題となっています。仮に人口が増えても徳利好きが増える予兆は感じられません。これは「残念なこと」では留まらず、人類に先がけてやきもの好きが絶滅へ向かう危機だということです。この国に”少徳利化対策庁”が設けられ予算が捻出される可能性は、7兆円どころか700円も、地球が滅びるまでにはまず無さそうです。
付録ですよ
徳利の出口(口辺ではなく「穴」のことです)の目安は、1.5~2.5合ほどの容量のものであれば、小指は入りそうで入らないか、無理に捻じ込めば入るが二度と抜けず、その後の人生は徳利を片時も放さず共に送るという程度が適切です。
この場合の小指サイズは人によって”白魚”から”麺棒”まで様々かとは思いますが、市販の軍手で不自由のない程度とお考え下さい。具体的には12mmから15mm(指輪の7号以下)くらいまでで、それ以上大きくなると本文のようなことになり、また如何に”白魚”といえども7mm以下(李朝初期のものなどに実際に有る)となると逆流しやすく、”一升瓶より直入”には相応の修練が必要となります(「修練はどうも苦手」という方は計量カップなどを使うと容易に入ります)。