その35. 写してくださいね
「『写し』ではなく『独自のもの』を」と若い作者さんたちは言われることがあります。
写しがまともに出来ない人が独自のものをやっても「写し」以下のものになります。
寸分違わず正確に写す、という試みを通ったことのない人の「独自」は、大概ただの出来損ないです。
完璧な写しを試みても必ずどこかにズレが生じますが、そのズレこそが「独自」「オリジナル」「個性」の正体です。
見る側がそういう基本を知らず、無責任に「オリジナリティー!」と躾の悪い安物のオウムのように繰り返すのは仕方がありませんが、問題は作者が自主的ににそう思い込んでいる場合です。
「既にあるものを繰り返しても意味がない」などというと一見尤もらしく感じるかもしれませんが、こういった発言をするのは「既にあるもの」を表層や印象のみで見ている人がほとんどです。その発言や発想こそが安直な写しといえます。
これも「知らないということを知らない」ことによる弊害といえますが、アドヴァイスを受ける相手を選ぶ眼も作者の重要な能力のひとつです。「正確なコピー」と「人マネ」と「贋作」はそれぞれ本質が異なるものですが、それらの判別が付かない人がこの界隈には少なくありません。
作者さんたちは、自ら興味あるものを何でもよいので、まずはとにかく可能な限り正確にコピーして下さい。そのうち勝手に「オリジナル」になります。幸いこの業界は、特許もへったくれもない無法地帯ですので、出来損ないのオリジナルよりは良く出来たコピーのほうが、流通していても害にならないものです。