前回の続編のようなものですが、こちらのほうがお読み下さりやすいかと思います。
酒の味を邪魔しない酒盃、その酒の味をできるだけ正確に知ることができる酒盃、というのはどのような酒盃でしょうか。
薄手で小振りの、装飾がなく透明で真筒形のガラス製のものです。
これがいちばん酒盃に気を取られずに済むからです。
やきものの酒盃、特に気に入っているものや、買ったばかりのものなどで呑むと気が散っていけません。
「酒:やきもの」が4:6くらい、場合によっては1:9という比率となり、さらには酒がただのアルコール分と化します。良い酒器は酒の敵、となってしまうのです。
これは大変にもったいないことですから、その酒の素性を「正確に味わう」際には決してやきものの、ましてや気に入っているぐい呑や盃などを使用してはいけません。
(注.1)「酒を楽しむ」場合では話がまったく変わってきます。前回をご参照下さい。
(注.2)まずい酒は何で呑もうがまずいのでそのかぎりではありません。
「唎き酒」の際、見込に蛇の目輪文のある、唎き猪口とよばれるやや厚手の染付磁器が使われます。見込の藍の輪文は酒の色を見るためのもので、酒が黄を帯びていると藍に対比して見分けやすくなるというものです。
酒の色も鑑評会などで、かつてはやかましく言われた要素でした。(現在ではそうではないようです。正しいことと思います)
酒の色などは、よほど珍しい深緑色や真紅などでもないかぎり、透明であろうがやや黄味を帯びていようがたかが知れたもので、「小娘の色などに惑わされてどうする!」と言いたいところですが、鑑評会は酒の味だけを評価する行事ではないのでそれでよいのです。
ですが唎き酒の場合は、酒の味と香り、あとは舌触りに特化してその酒の味覚の素性を「唎く」ものです。色は邪魔な要素です。さらにあの酸化コバルトの藍の「ぐるぐる」を見ながら呑むと、目の前もまたそのようになり、「悪酔い」にいざなわれます。
さらにこの唎き猪口はたいがい手重りが中途半端で、口縁のつくりもやはり中途半端な丸みが酒の「切れ」を妨げているものです。これにまた感覚は分散されます。酒盃としての機能も優秀ではありません。
唎き酒に唎き猪口はまるで不向きなのです。
ですがこれまでそれに文句を言っている者をほとんど見かけず、皆平然とそれを使っている光景はB級ホラー映画をみているような気分ですが、この「やきものの常識は疑え!」はもとよりすべてそのような話しでした。今回は「B」です。
唎き酒などの場ではなく、普段呑む折に「やはり唎き猪口が好き」という方は、お好みのことですので、見込に「あおへび」が描かれていようが「しろねこ」が描かれていようが、まったく問題のないことです。
自己責任においてご使用ください(見込みのぐるぐると同じくらいに悪酔いしそうな言葉でした)・・・・。