ヒトの場合、「キズ」といえば怪我や病気などによるキズの他、心に傷、脛にキズ、信用に瑕、珠に瑕、娘をキズものにしやがって、などとキズの種類にもいろいろあるようです。
やきものにも同じく「キズもの」といわれるものがありますが、まずここでは、「デパート」や「ある種のやきもの店」などが、顧客からクレームがあると眼の色を変えて即座に作者のところへ返品しようとする事案の代表である「水漏れ」を取り上げてみます。
「水漏れ」の原因には大きく分けて二通りあります。
まずはその器にヒビや割れといったものがある場合です。これには窯の中で焼成中に生ずるものや焼成後の冷却時に生ずる「冷め割れ」(窯出し後に割れる場合もあります)があり、これらは作品が窯や他の作品とひっついた跡も合わせた「窯キズ」と、ぶつけたり落としたりしてヒビが入ったり割れたり欠けたりした場合とがあります。
もうひとつが、キズは無いが水は漏れるという場合です。これには「焼き締まり」が不十分な場合と、充分に焼き締まっているが素地中に含まれた石や亜炭、木の根などの有機物が素地を貫通している場合とがあります。
後者の場合では焼き締まりが強いほど、素地と石との間に隙間を生じ漏れも激しくなります
花器や酒器など液体を入れるものの場合、少量の漏れであれば使用を重ねるうちに自然に止まる場合も多くこれが最良の方法ですが、入れたばかりの水や酒がたちどころに半分に減ってしまうというのは、やはり通常不都合なことです。
そこで「水止め」を施すわけですが、漏れの状態によってその対処方法が異なり、割れやヒビ、隙間の広い石ハゼや穴などの場合には漆や合成樹脂で埋めますが、流通する「現代陶」で最も多いのはシリコンや非シリコン系撥水剤に浸す、というやり方です。
焼きの甘いものや隙間の狭いものであればこれでひとまず漏れは収まります。現在、多くの作者がこの方法を使っています。
ですがこれには大きな問題があります。
これは撥水剤によって「水を撥ねている」わけです。水を打つと、やきものの表面がレインコートに水滴が付いたのと同じような質感になります。
やきものは「水が利いてなんぼ」です。
つまり、「水漏れは止まるがやきものの魅力は大幅に失う」わけです。
ですがこのようなことには平気でも、ちょっとした漏れでも気になる者が意外なことに多いものです。
そのようなわけで「素人さんの店」などではまず先述のような騒ぎになるので、作者さん達は安直な防御策として、本来は撥水処理などしなくてもよいものまで一様に「まず止める」ことになるのです。これはやきものにとって不幸なことです。
世の一般常識からはやや離れた言い回しにはなるかも知れませんが(もともとそのためのコーナーでした・・)、『やきものは少々漏れるくらいの方が絶対に良いのです!』。
酒器であれば、酒がボトボト垂れ落ち二合入れたはずなのに三勺しか呑めなかった、などということでない限りそのまま使用することを「お勧め」します。
花入の場合でも一日置いて敷板から溢れ出ない程度であればそのまま使い続けるほうが圧倒的によいのですが先のような残念な理由で作者たちに強烈なシリコン撥水剤を使用させることになっています(繰り返しますが、作者もやはり安直にすぎます)。
大小の石ハゼなどで質感が構成されているやきものは、本来漏れて当たり前で、しっかり焼けているもののほうが明解に漏れます。こういった質感のやきものに心を寄せる方々がもし「漏れ」を気になる場合には、「必要悪」だと思って諦めて下さい(実際は決して「悪」などではありません、「水止め処置」のほうがはるかに「悪」です)。
「それでもやはり漏れは許せん!」という方には、無惨に撥水コーティングされた気の毒な“土もの”より、100円で買うことのできる、完璧に漏れない機能性とコストパフォーマンスを兼ね備えた器をぜひお勧めします。
とは言いましても、こちらも「親切がモットー」のやきもの販売店ですので、もちろんお客様によって様々な対応の仕方を心掛けております。
ある人にはひとしきり先のような説明をして「ぜひそのまま使ってやってくださいね」と言う場合もあれば、何も言わずに「では早速お止めいたしましょう」と対応することもあります。これがどういうことか、についての説明は省きます。
水止め修理などは、まったく何の手間でもない簡単なことです。これも出来ずに作者に押し付ける販売店は、タイヤのパンク修理が出来ない自動車販売店に該当します。
さらに、無条件で何でもすべて「水止め」をする作者や店は、無条件ですべての虫歯を抜き去る歯医者に該当します。
やきもの販売でも当然、各種修理技術や症状別による対処が不可欠な業務です。
この「“水漏れ”ということについて」は、やきもの愛好者や作者、販売店の皆様にはぜひ再認識と再考をお願いしなければならない問題なのです。やきものは「屋根」とは違います。
ちなみに私は「自分用のもの」を発注する際、「絶対に水止め処理をしないように」と依頼しますが、良い感じに漏るものに当たると徳利であれ盃であれたいへん幸せな気分を味わえます。
ドボドボと壊れたシャワーのように漏る徳利の場合、徳利ごと片口に入れて使用しています。半分ほど「無断外出」する酒は片口より再び強制送還するか、酔いが廻ってそれも面倒になってくれば片口から直接注ぎます。こうすれば徳利の外面も早く良い味になって来ますし、見た目にもその光景が「一寸法師」のようで(ややデカいが)可愛いですよ!