高麗茶碗Ⅰ 名称について
高麗茶碗を考えるにおいて、井戸やら柿の蔕やらという茶道用語は一度忘れたほうがいいでしょう。お茶の立場から見れば、これは伝統のある、大いに正当な見方なのでしょうが、全ては日本の茶方の一方的な名称で、今でこそ韓国でも一部浸透しつつありますが、区分も曖昧で混乱を招く名前といえます。
今までの考え方としては大井戸を軸に、青井戸、小(古)井戸、井戸脇、小貫入、堅手と、だんだんと数が増え、大井戸の特徴が薄れていく印象です。しかし大井戸はともかく、井戸脇っぽい青井戸、箱では堅手なのにどう見ても井戸、刷毛目さえなければ青井戸など、アイノコ的なものも沢山あります。どこからどこまでが井戸で、ここからは違うと言い切れるのでしょうか?それに井戸スタイルは茶碗だけなのか?鉢や盃、壺はないのか? 勿論一般に井戸手と言い慣らされているカイラギがでているだけの李朝後期の器は論外です。
例えば今回の品物はざっと分析するとサイズは17,5センチ、高さは8,7センチなので形状的には鉢、微妙に竹の節高台とカイラギらしきものもあり、いくつか井戸の特徴を兼ね備え、色は琵琶色と青みがかった片身替りの土灰釉で魚屋風、内側には何とうっすら刷毛目、口はベベラができてイラボ風、と、色々な種類の高麗茶碗の特徴を兼ね備え、まったくミッシングリンクの1ピースにふさわしい風体です。
こうした鉢は轆轤の時にまず深い碗型に引き上げ、その後コテかヘラで広げていくので、開くのをもう少し止めておけばもっと口も厚かったでしょうし、高さももう少し高く9、5センチ前後となり、釉が厚ければカイラギももっとはっきり出て、井戸茶碗の仲間入りをしていたかもしれません。
元々の用途についても、これらは鉢、碗、皿のセットだったという説もありますが、当時の生活など、もっと詳しい資料から考察する必要があります。
井戸を研究するためには名品ばかりが載っている本を眺めていても糸口はこれ以上見つかることはありません。市井にある無名の、本に載っていないものたちを総動員し、ミッシングリンクを埋めていく必要があるでしょう。
幅17,5cm 高さ8、7cm