その18. 徳利の口の話
現代製の徳利をみていて、姿形や肌合い、前回に述べた「穴」の寸法に増して気になる機会が多いのが、口辺部の肉厚です。この部分が全体のバランスからみて明らかに不自然に薄い徳利が多い、ということです。ここでいう口辺部の肉厚とは、先端より2㎝ほど内側までの間のことを指します。結論からいえば、この部分が「ペラペラ」の徳利は、見ても使っても精神衛生に良くないので、2回も注げば役目終了となります。作者が「酒切れ」を意識してそのような口辺に仕上げているとすれば、それは無理に徳利を作る必要のない作者です。口辺が相当に厚くとも酒切れの良い徳利もあれば、薄くても切れの悪い徳利もいくらでもあります。また、酒が一滴も垂れずに切れる徳利は案外つまらないもので、理想は一滴垂れた酒が肩付近で留まる徳利です(横口である片口や急須は垂れないほうが良いです)。ペラ口徳利をみると、その作者の”やきもの愛”の稀薄さの他に、「あなたのことを思って」という、実際にあなたを思う者は決して口にしない定番枕詞を乱発する親、教師、先輩、上司、知人達のようなものも連想させます。