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50. 縁切り鳶口の話

 

 

飲み屋さんで燗酒などをたのむと、多くの場合片方に注ぎ口が付くいわゆる「鳶口」で細身の徳利が出てきます。一合たのめば通常“七勺入り上げ底一合徳利”が出てきますので三合たのんでも二合一勺、つまり二合しか呑めないことになりますので、二合以上呑むのであれば最初から二合徳利でたのむと一合七勺入りが出てきます。すでにこの段階で三勺は多く・・・・・と、このような話をしようとしたのではありませんでした。

 

「注ぎ口の付いた鳶口徳利で酒を注ぐ場合、「注ぎ口」から勺をするのではなく、注ぎ口の反対側から注ぐのがマナーであると聞いたのだが、それは本当か?」という質問を受けることがありました。その理由を尋ねると、「注ぎ口から勺をすると『縁を切る』ということで嫌われる、と以前テレビで紹介されていた」とのことです。

 

なるほど、そういうことであればたいへん簡単な話です。

まずは、徳利も含め器の飲み口や注ぎ口のことを「口縁(こうえん)部」といいます。

上記の鳶口徳利の場合では、その口の造りは「口縁部に注ぎ口がついたもの」です。つまり「注ぎ口以外はすべて口縁」ということです。

もうお判りかと思いますが、「縁を切る」ということであれば、“注ぎ口以外”から注ぐことこそが「そういうこと」になります。また「注ぎ口が縁(円)の切れ目」と縁起を気にするのであれば、結局どこから注ごうとも鳶口徳利を使うこと自体が「そういうこと」になりますので、いずれにせよ先の説は間違いということです。

ほかには「戦国時代、武将を暗殺するため注ぎ口に毒を塗る可能性があるため反対から注いだ」という説もあるそうです。ですが「戦国時代」には「鳶口の徳利」はありませんでした。

 

それでは鳶口徳利であればどこから注ぐのが正解なのでしょうか?

これには明確な回答があります。

答えは「どこから注いでもかまわない」です。

 

注ぎ口の反対側から注いだほうが良い、などということは一切ありません。注ぎ口は本来注ぐためのものです。ですが、それ以外から注いでも公安に連れて行かれたりはしません。

注ぎ口から勺をして相手から文句を言われた場合、「おまえが間違っている」とぜひ教えてあげて下さい。ただし、人の役には立ちますが酒はまずくなります。

 

口縁に鳶口状の注ぎ口が設けられていても、口縁部の構造が端反りになったものや内向したものがあり、鳶口の形状にもいろいろあります。その結果、注ぎ口より素直に注ぐと注ぎやすいものや、注ぎ口以外からの方が使い勝手の良いものなど個体により様々で、また使用者によって「注ぎやすい」と感ずるポイントが異なります。一例をあげると、注ぎ口が極端に下がっている形状の出来の悪い鳶口を使わざるを得ない場合、不慣れであれば酒切りの際徳利の腹が酒盃に当たりそうになることがあるので、その場合は注ぎ口以外から注げば良いわけです。

鳶口に関わらず徳利から酒を注ぐ際の注意点があるとすれば、「酒を美しく注ぐ」ということくらいでしょう。これは、徳利の口を盃に近付けすぎない、徳利の持ち方に無理のないといった程度のことです。

あとはマナーであれば、他者に勺をする場合には盃の6~7分以上には注がないことです。他者の盃に酒を満たそうとする者は端で見ていても鬱陶しいものです。

 

また、徳利好きであれば敢えて「注ぎにくい」ところから注ぐのも楽しみのひとつです。口縁の形状により酒の出る景色が随分変わるからです。例えば「注ぎ口の付け根」より注ぐと酒の出が複雑に変化して楽しいですので、ぜひいちどお試し下さい。「飲み屋の鳶口」以外にも鳶口の酒注ぎには様々な形状のものがありますよ。

 

ですが、やきもの好きではない者の前で「注ぎ口の付け根」から酒を二股に分けるなどして喜んでいると、かなりの確率で実際に「縁が切れる」かもしれませんので、ぜひとも縁を切りたい相手には「注ぎ口から注ぐ」以上に格段の効果が望めるものと思われますのでお勧めです。